大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)1194号 判決

中国製鉄株式会社 破産管財人

上告人

馬渕分也

被上告人

梶野庄一郎

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由前文について。

原判文によれば、原審が所論の点につき適法に事実を認定判示していることが明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審で主張しない事実を交えて、原審が適法にした事実の認定を非難するにすぎず、採用することができない。

同第一点及び第二点について。

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。所論中違憲をいう部分は、具体的に憲法のどの条項に違反するかを主張するものではないから、失当である。論旨は、採用することができない。

同第三点について。

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。所論中違憲をいう部分は、原判決に右違法のあることを前提とするものであるから、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

同第四点及び第五(2)について。

相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。

そうすると、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、採用することができない。

同第五点(1)及び第六点について。

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(吉田豊 岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎)

上告人の上告理由

〈前略〉

第四点 原判決は民法第四二四条違背があります 同条債権者である上告人は債務者である被上告人が債権七八万円あることを隠匿してこの額も債務額をも明示せずして抽象的に債務超過なる申述は上告人を害することを知りつつ為した法律行為でありますから相続放棄の取消を訴えた処相続は身分権なり或は放棄は自由なり等の憲法と法律の解釈を誤つた判断は放棄取消として下さるべき判断で相続権の身分権との一審の判断と原審が放棄の自由と組替られても依然として憲法と相続規定及び本条に違背せる判断と主張するものであります。

第五点 原判決には民事訴訟法第一八六条及び第三九五条一項六号理由不備審理不尽判断遺脱の違法がある。

(1) 〈省略〉

(2) 理由二枚目以下相続人の財産が債務超過の場合は単純承認によつて被相続人の債権者が不利益を受けることとなるこのような場合相続放棄を詐欺行為として取り消すとすれば相続人に対し相続の承認を強いることとなり、との理由は当事者の申立ざる仮説を設けての相続承認強制の判断は更らに証拠に基づかない判断であります 被上告人は被相続人の債務超過を抽象的に申立てたのみで自身の債務超過とは申立てていません、これに対し上告人は債権七八万円債務四六万三七五〇円との主張につき相手方は異議を申立ざるのみか本件と同列の被上告人庄一郎、茂雄の二人は本件債務を履行していることまで主張せるに原審の判断は当事者の申立ざる事項の判断の違法があります。〈後略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例